ROCK & SNOW No.62
- ロックアンドスノー 2013冬号 -ロクスノ2013年冬号(通巻第62号)が12月6日に発売されました。
特集は 「会心のクライミング」。 2013年の12月発売の本誌は当然、同年10月のウエリ・シュテックのアンナプルナ南壁ソロをトップの記事として取り上げる。 この歴史的登攀のために、「会心」 と銘打って組んだ特集であることは容易に推察できる。 なにしろアンナプルナ南壁がソロで撃墜されるのは初めてのことだし、まして今回はBCから往復28時間という脅威のスピードで成し遂げられたのだから。
「この10年来、なかった成果」 という評価も決して過大ではないはずだ。 もちろんそれは奇跡のように突如湧き出たものではなく、やはり実績を積み重ねてきたシュテックの実力と経験 (シュテック自身アンナプルナ南壁では2回敗退していて今回が3度目の挑戦)、それと過去に犠牲となった多くのクライマーたちが与えてくれた教訓、それらの集大成という一面もある登攀のようだ。 現に今回シュテックは、1992年にピエール・べジャンとジャン=クリストフ・ラファイユが試みて命を落としたラインを登る。 とは言っても、シュテックの神業のような登攀速度自体が奇跡のように見えてしまう。
シュテックのアンナプルナI峰南壁の登攀は、本誌の "クロニクル"、"ON THE SCENE" でも取り上げられている。
また、この登攀についての動画は、ネット上のVimeoでも見ることができる (2分17秒)。
登攀している映像はないが、今回のシュテックのラインを把握しやすいです。
Ueli Steck - Annapurna South Face - Quick Edit from Nepal
Ueli Steck - Annapurna South Face - Quick Edit from Nepal from Fenom Creative Group on Vimeo.
特集 「会心のクライミング」 ではその他にも、アレックス・メゴスがオーストラリアでこなしたボルダリング・フリークライミングの難関課題やルート、それに佐藤裕介さんによる称名滝・冬季初登なども紹介している。
第2特集は 「山岳滑降の現在形2013」。 「中部山岳急斜面スキー滑降の実践とグレーディングの試み」 という内容で、提案者・記事の執筆は三浦大介さん 。 文字通り、山岳滑降ルートにも (クライミングルートのような) 難易度の数値化・グレーディングを取り入れて大系化してみようと試みる特集です。
山岳スキーというのは決して歴史の浅いものではなく、にも関わらずいまだに統一されたグレーディングがなされていないのには理由がある。 すなわちスキールートの難易度は、雪質など不確定要素に因るところがミックスクライミングなどと比べても極端に大きく、斜度のような確定要素だけでグレーディングしてもほとんど意味を為さないとされているからだ。 三浦さんはもちろんそれは百も承知の上で、「それでもグレーディングは、今後の発展や長期的スパンで見ればあながち無意味ではない」 という立場を取られ、今回の記事を執筆する。
今回、三浦さんが提唱するグレーディングの方法は以下の通り。
まず滑降グレードを定義していくにあたって、スノーコンディションなど変化する因子は除外することを前提としている。 ここではコンディションが最も良い状況下にあるという仮定の下に固定し条件を一致させ、その上で斜度、高度差、地形などの確定ファクターのみを統合していき滑降グレードを定めていく (S0~S8)。 次に、リスクグレードを定める (R1~R4)。 これは滑落した際に受けると想定されるダメージや落石しやすい浮石などが考慮されたもの。 リスクグレードは精神的負荷にも関係してくると三浦さんは言う。 最後に登山グレードだが、これは通常のアルパインルートグレードを利用する (I~V)。
三浦さんは、以上の3つのグレードを組み合わせてルートのグレードを決定していくことを提案する。
この方法に則り実際のルートを見ていくと、次のようになるという。
・ 南岳東壁 (II, S6, R3 / max55度 450m)
・ 常念岳東面ダイレクト (II, S4+, R1 / max45度 1200m)
など。
ちなみに、馴染みのあるスタンダードなルートのグレーディングは次のとおり。
・ 奥穂直登ルンゼ (I, S4+, R1 / max45度 400m)
・ 谷川岳マチガ沢本谷 (I, S5, R1 / max50度 1100m)
・ 白馬岳2号雪渓 (I, S4+, R1 / max45度 650m)
・ 白馬鑓中央ルンゼ (II, S4+, R2 / max50度 1000m)
遊びの面もある特集だが、確かにこの組み合わせ方式のグレーディングであればルートを把握しやすく、未経験ルートでもイメージしやすい気がする。
また将来的にルートグレードをベースとして、これにリアルタイムでスノーコンディションや雪崩リスク情報も加えて配信できるシステムを構築できれば、大きな意味を持ってくるのは間違いなさそうです。
その他、今回の号には、9mmロープをシングルで (屋内ジムのトップロープで) 使ってみるというテストのレポートや、連載記事クライミング道場 「スラブのムーブ」、岩場のアクセス問題の記事など、面白い記事が多いです。
次号の発売日は、
2014年3月6日(木)
『ROCK & SNOW 2013冬号 No.62』
定価 1,400円 (1,333円+税)
発行 2013年12月6日 発売
出版社 山と渓谷社
URL http://www.yamakei.co.jp/products/2813906225.html
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ROCK & SNOW No.61
- ロックアンドスノー 2013秋号 -ロクスノ2013年秋号(通巻第61号)が9月に発売されました。
この号には、2013年度のクライミングシューズのニューモデル試履レポートが掲載されています。
各社からリリースされたシューズ計20種類を、足の入れやすさ、ヒールフック、スメアリングなどの8項目についてそれぞれ、3名のテスターが採点しています。 志向やスタイルは人それぞれで、評価も採点者の主観に依存することになるのはやむを得ないところですが、今回も、採点だけではなく特徴などを丁寧詳細にコメントされているので、シューズ選びの際、参考の1つにできそうです。 我々一般の人間が20足のシューズを試履する機会なんてまずないと思うので、こういう記事はなるべく活用したいです。
ちなみに、今回のテスター3名のうち2人が 「イチオシ」 に選んだのは、スカルパのインスティンクVSでした。 今すごく売れてるシューズです。
シリーズ連載も読みどころが多いです。
千葉啓史さんの 「クライミングのためのPhysical Training」 は、筋肉の腱反射や伸張反射についての話で、クライミングとか抜きでも興味深い話です。 中根穂高さんの 「クライミング道場」 では、意外(?)と盲点のムーブ・マントリングについての話です。
山野井泰史さんと野田賢さんによる、ペルーのプスカントゥルパ東峰の南東壁ルート開拓の記録も読み応えのある記事です。
次号の発売日は、
2013年12月6日(金)
『ROCK & SNOW 2013秋号 No.61』
定価 1,400円 (1,333円+税)
発行 2013年9月5日 発売
出版社 山と渓谷社
URL http://www.yamakei.co.jp/products/2813906224.html
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- 『SKI journal - スキー ジャーナル -』 2013年7月号
- 『ROCK & SNOW No.60』 - ロックアンドスノー 2013夏号 -
SKI journal 2013年7月号
『スキージャーナル』 は整地での競技滑走技術に重点を置いているスキー誌というイメージが強く、BCメインでしかもテレマーカーの自分はあまり読む機会がないのですが、この号はスキーオフトレの一環としてボルダリングをやろうみたいな面白そうな記事を載せていたので購入してみました。
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(Amazon)
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「クライミングでうまくなる!」 は今号単発の記事ではなく新連載で、その第1回目がこの2013年7月号に掲載されたわけです。
とはいえ第1回目の今回は、実際にクライミングをやっている人が読んでも得られるものは少ない (あるいは全くない) 記事です。 7ページのうち5ページを使って、クライミングとは何かとか靴の選び方みたいな未経験者向けの説明をしています。 つまり、クライミング経験者を想定してない記事になっています。
残りの2ページでクライミングとスキーの共通点、なぜオフトレに成り得るかを説明しています。 ここでは理由として、1.体幹が鍛えられる、2.重心移動の感覚強化、3.目線とコース攻略の意識が高まる、の3点を挙げていますが、正直、それくらいならクライミングである必然性はあまりない気はします。
今回の連載で講師を務めるデモンストレーターのご両人も、普段はオフトレとしてではなくクライミングを普通に楽しんでいるはずですが、スキー誌としての 「縛り」 故に、なんとかスキーとクライミングとの接点を見つけようと腐心されている感じが伝わってきます。
ただ、クライミングである必要がかならずしもないというだけで、クライミングであっても当然構いませんし、特に2の 「重心移動」 は重要な接点かもしれません。 今回は書かれていませんが、そこには、足裏を一面としてではなくいくつかの領域に分けて意識することや、体軸と斜面(壁)と鉛直方向へかかる重力の関係を考える必要のあることも含まれると思いますし、だとすれば、それはクライミングとスキーの持つ顕著な共通性であり、オフトレとして紹介する意味も出てくるかもしれません。
第1回目なので簡単な触りでしたが、これから掘り下げられていくとしたら楽しみな連載です。
また自分の経験上、何か新しいことを始めるのはこういうひょんなことが多い気がするので、これをキッカケにオフトレのつもりでクライミングを始めるスキー屋さんとか出てくるとすれば、これは記事としてはとても有意義な気がします。
『SKI journal 2013年7月号』
定価 880円
発行 2013年6月10日 発売
出版社 スキージャーナル
URL http://www.skijournal.co.jp/search/detail.php?ID=2902
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