山とスキーとローゼンメイデン

登山、スキーについてのブログです。 また、ローゼンメイデンについての記事も書いています。

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7月19日、「ローゼンメイデン」 の小説版 『ローゼンメイデン ツヴィリンゲ』 が発売されました。


ローゼンメイデン ツヴィリンゲ


「ツヴィリンゲ([独] Zwillinge)」 は 「双子」 の意味だそうです。
このタイトルと表紙の絵からも分かる通り、翠星石と蒼星石を主人公とした書き下ろし小説です。 執筆は久麻當郎さん。




ローゼンメイデン ツヴィリンゲ



結菱一葉は昔の夢を見る。
自分から半身と1つの可能性を同時に奪った光景が、再び目の前で繰り広げられる。

夢は強い力を持つようだった。
痛みを過去のものとして見えない場所に隠すことを許さない。
怠ることなく手入れされている鋏の刃のように、
時間が経っても錆びることなく、鋭く心の樹に新しい傷を刻みこむ。

結菱一葉は夢に搦め捕られて身動きできなくなる。
どこへも行けない・・・。



内容


翠星石と蒼星石、それにそのマスターたちの話です。

「夢の悪用」 を企てる結菱一葉に対して、翠星石と蒼星石の意見は相違し、やがて2人は袂を分かつことになる。 これは Rozen Maiden 本編で描かれる通りなのですが、原作で描ききれなかったその辺りの細部を補足しつつ、独自のエピソードも加えて展開してきます。

もう一つ、小説版オリジナルとして翠星石と蒼星石の過去も描かれます。


スピンオフもそうですが、こういう原作のある作品からの派生ストーリーというのは、書ける範囲が相当限定されると思います。 なにしろ自由に使えるスペースは、今まで原作で描かれていなくてこれからも描かれないであろう範囲だけ、なのですから。 そういう縛りの中で 「きゅうくつさ」 を全く感じさせず、自然に描かれるているところがまず素晴らしいです。

それでいながら、与えられた領域を最大限に利用して、登場人物たちは可能な限り自由にダイナミックに動きます (体操の床競技選手たちが、ラインオーバーしないギリギリまで最大限に床を使って、華麗な演技を繰り広げるみたいに)。

使用できる領域を正確に見極めていて、かつ登場人物たちもよく把握していないとこうはいかないはずです。 執筆された久麻さんという方は、ローゼンメイデンを相当読まれている方なのだと思います。


この小説を読んだあとにもう一度、本家コミックスを読み返してみると、小説で書かれていることが原因になって本家で事件が起こってるみたいな、そいういう逆転現象的な感覚に陥ります。 つまり、それだけうまく書かれた話なのだと思います。


目次


  序章 n=0 序
  1章 n=1 覚醒
  2章 n=2 開花
  3章 n=3 意志
  4章 n=4 策略
  5章 n=5 戦闘
  番外編 n=√2 呪い人形


本編は n=1 から n=5 まで。
n=0は序章で6行の詩、n=√2はおまけ的な番外編です。


2つの舞台

主に2つの時代が舞台となります。

1,メイン舞台となるのは現代の日本で、結菱一葉がぜんまいを巻き、蒼星石と契約するところから始まる。

2,もう1つの舞台として、中世か近世頃のヨーロッパが描かれる。 翠星石と蒼星石の昔のマスターたちの話だ。 回想という形ではあるけれど、n=2 では丸々、n=3 でも半分くらいのページが費やされている。



舞台1・現代日本 / 薔薇屋敷の結菱氏

翠星石と蒼星石、結菱氏の話です。
本編であまり描かれなかった結菱氏について多く語られます。


ローゼンメイデンの登場人物、特にマスターたちは個性の強い人間が多いのですが、結菱氏に関してはかなり印象が薄い気がします (旧アニメ版の蒼星石マスター(柴崎元治)の印象が強いせいもあるかもしれませんが)。 復讐するために蒼星石を利用するつもりだったのに逆に救われて、蒼星石が斃れた後は温厚な紳士に戻り、やがて雪華綺晶に精神を連れ去られてしまって退場・・・だけみたいな。

結菱一葉
蒼星石のマスター・結菱一葉


そのように本家で描写が少ない人物なので、原作設定に抵触しない範囲内で書かかなくてはいけない小説版にはうってつけの人物なのかもしれません。 ただし、この小説版ではそれだけには留まらず、本家の結菱像にも積極的に干渉し、原作では描ききれなかったところも補足します。

例えば、冒頭部分では夢に苦しめられる結菱氏が描かれます。 この描写によって、原作本編での彼の行動を知っている読者は 「苦しめられているが故に結菱氏は夢の力を知っていて、だからこそ、夢の庭師の力を使って復讐することを考えた」 と結びつけることができると思います。

また小説版では、結菱氏と翠星石の関係は思っていたほど険悪ではなく、翠星石も結菱氏が抱える悲しみを理解はしていた、という風に描かれます。 原作では、蒼星石を失った後は翠星石が結菱氏の元にしばしば足を運び一緒にお茶をする場面が描かれますが、その原作での描写にも一層の説得力が与えられた気がします。


最終章 n=5 では、Rozen Maiden本編に繋がっていきます。
自然な形で小説オリジナルの脚色も加わっていて、翠星石の 「ちょい腹黒人形」 ぷりも遺憾なく発揮されていて見どころです。


舞台2・昔のヨーロッパ / 若き皇帝とガラス職人

回想という形で、翠星石と蒼星石の昔のマスターの話も描かれます。

ヨーロッパのとある帝国の皇帝ルドルフと簒奪を企てる皇弟マティアス、それにガラス職人を目指すレオシュの話です。

この時代では蒼星石は皇帝ルドルフと、翠星石はレオシュとそれぞれ薔薇の契約を結んでいます。

ルドルフはヨーロッパの広域を支配する帝国の若き皇帝で、政治よりは芸術に興味があるみたいです。 ルドルフには弟がいて、その弟は兄に取って代わろうと野心を抱いています。

翠星石が契約を結んでいるガラス職人レオシュは、腕の良い職人だけどちょっと頼りなさげです (どこかジュンに似ている気がします)。

モデル

ルドルフとマティアスは実在の人物をモデルにしたみたいです。
ルドルフ2世(Rudolf II.,1552 - 1612年)とマティアス(Matthias, 1557 - 1619年)で、wikipediaによるとルドルフ2世は文化人で多くの芸術家や学者、錬金術師を援助したそうです。

もちろんローゼンメイデンのドールが作られた時代は不明です。 あくまで名前や設定を借りてモデルにしただけで、小説で描かれるのは当人たちではありません。


兄弟・双子

両方の時代の蒼星石のマスターに共通しているのは 「兄弟・双子」 です。
兄弟・双子が 「対」 として描かれ、「もう一人の自分」 との同一化や入れ替わりがモチーフになっています。

皇帝ルドルフは、弟マティアスに簒奪されるという形で入れ替わりが行われます。
結菱一葉は本編にも描かれている通り、双子の弟・二葉に成り代わり、事故死した弟に代わって生き続けます。


  「マティアスはマスターに追いつこうと必死になっている。いや、取って代わりたいようだ」
  「そんな……兄弟なのに……」
  「でも、僕らドールズも姉妹なのにいつか争う運命にある」


                    (『ローゼンメイデン ツヴィリンゲ』 p.55 より)


            *       *       *

翠星石と蒼星石は一対の双子ドールですが、似た者同士というよりは、目の色が象徴するように鏡合わせのように反転している存在です。

この双子のローザミスティカは姉妹たちの中で唯一、相手との互換性があります。
ローザミスティカはローゼンメイデンのドールたちにとって最も大切なもので、ともすれば自分の存在意義やアイデンティティさえ決定づけるものです。 そのローザミスティカが交換可能であることは、自分の存在が相方のスペア (もちろんその逆も然り) で半身に過ぎず、あらかじめ代わりの用意されている不完全な存在であることを意味する、と当人たちが受け取ってしまうのも無理からぬ話なのかもしれません。 岡目にはやや乱暴な考え方のように見えますが、当人たちにとっては深刻な問題のはずです。

小説の中で、翠星石が妹の蒼星石と服を交換して入れ替わるというシーンが描かれますが、なかなか感慨深いです。

翠星石はその事実を (少なくとも表面上は) 平然と受け入れていますし、それどころか、双子の妹に何かあった時には自分のローゼミスティカを役立てられるので喜ばしく思っているようにも見えます。
蒼星石もそういう翠星石が好きなのだと思いますが、一方で双子の姉とは違う存在であろうとして、自分が双子の 「片割れ」 であることを必死に否定します。 意識して否定すればするほど、ますますその念に呑み込まれていき、気がついた時には身動きが取れないほどがんじがらめにされていました。

蒼星石は自分の世界の破壊を望んでいて、そんな時に結菱氏に出会ったのだと思います。 結菱氏と契約した時には既に蒼星石は 「死」 を覚悟していた、そんな気がします。


蒼星石が 「影との戦い」 を一身に引き受けてくれたおかげで、同じ双子であるにも関わらず、翠星石はそういう苦悩とはある程度無縁でいられたのかもしれません。




書籍について



ローゼンメイデン ツヴィリンゲとコミックス9巻
ツヴィリンゲとコミックス9巻


紙質や大きさは、ヤングジャンプコミックス 「ローゼンメイデン」 と同じです。
並べても違和感ありません。

本を開くと、カラーのイラストが織り込まれています。
イラストは、オールカラーで電子化する時に使われる手法でデジタル彩色されているみたいです。


130722_05.jpg


あと、おまけでしおりがついています。

しおり
しおりは表と裏で2コマの漫画みたいで、コミカルな仕様です





関連リンク








 [ ローゼンメイデン ツヴィリンゲ (JUMP j BOOKS) ]

 定 価 :840円([本体 800円] + 税)
 発売日 :2013年7月19日
 著 者 :久麻 當郎 / 原作・表紙イラスト :PEACH-PIT
 発行所 :株式会社 集英社

ローゼンメイデン ツヴィリンゲ (Amazon)


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ローゼンメイデン tale43

TALE43 / 平穏な日常

お願いよ、力を貸して・・・


  二つの世界を結ぶ点は、もう消えてしまったんだろう

  それでも時々、あの初めてのメールを思いおこす
  そして、あれは夢じゃなかったと確かめる



ジュンは時々、違う世界の自分を想う。
もう一人の自分にぜんまいを巻かれた、ローゼンメイデンの人形たちを思い出す。

彼らは、ある日突然こちらの世界へやって来て、同じように唐突に立ち去った。


それは現実に起きた出来事のはずだ。
でも、たとえ夢だったとしても別に構わない気もする。



■ 「平穏な日常」

現実にしろ夢にしろ、この接触はジュンの意識に変化をもたらす強烈な体験となる。
この出来事の後、ジュンは以前よりもずっとうまく現実世界と関わり合っていくことができるようになった、ようにみえる。

手元に残った結果だけをみれば、違う世界から来たジュンや真紅たちが空想や無意識によって生み出された架空の人物、ということにしてしまっても問題ないはずだ。

むしろ全ては夢だったということにして、フタを被せてしまった方が楽になれる。
生きた人形が存在するというオカルトみたいな事実を認めなくて済むし、アリスゲームという面倒くさそうなことにも関わらなくて済むのだから……。


それでもジュンは、やはり現実に起こった出来事として受け止める。
この記憶が現実世界から離れていかないように、しっかりと結びつけておく。

もしジュンが忘れてしまったら、かつてこの世界に真紅たちが存在したことを知る者はいなくなる。 それは――真紅が言ったように――最初から存在しなかったのと同じことなのかもしれない。


そうなれば、あちらへ通じる扉が開かれる可能性は永遠に失われてしまうのだ。



■ 鍵

ある時、斉藤さんはジュンのポケットからはみ出すストラップに気づく。

 「なあにソレ、カギ?」


ゼンマイだ、とジュンは答える。
ジュンは、真紅が残していったぜんまいをストラップにして携帯電話に結び付け、普段から肌身離さず持ち歩いていた。


ぜんまいと謎の人形、この2つの(どこからかやって来て、こちらの世界に残置された)物体が、ともすれば夢とも見分けがつかなくなりそうなあの一連の出来事を、現実世界に結びつける役割を果たしてくれているようだった。

物質の持つ現実的な重みと固定された形骸は、曖昧で流動的な人間の記憶や想いを補ってくれるし、持ち主を励ましてもくれる。


この2つの物質が存在している限りジュンは真紅達の存在を忘れることはないし、いつの日かまた、向こう側へ通じる扉を開いてくれるかもしれない。

そういう意味でこのゼンマイは鍵なのだ。 斉藤さんが指摘したように。


 「いつかまた会えるだろうか、僕の人形たち」

ジュンは強くローゼンメイデンたちのことを想う。


その晩、一本の電話がかかってくる。



■ テレビ電話

ジュンは何かの音で目を覚ます。
いつの間にか眠っていたようだ。

それが着信音だということに思い当たり、携帯電話に手を伸ばす。


ジュンを呼び続ける着信音は、いつもと違って聴こえた。
脳がまだ覚醒していないせいかもしれないし、あまり使わない機能でかかってきたのかもしれないし、特別な場所から想像もしない人が、尋常ではない用事でかけてきたのかもしれない。

ジュンは電話に出てみる。
その全てだった。


まず音声が入り、映像が送られてくる。
画面に映しだされたのはローゼンメイデンのドールたちだった。 翠星石と蒼星石、そして真紅がいる。

真紅達が、どこかの領域からかテレビ電話を使ってジュンにコンタクトしてきたのだ。 テレビ電話?


事態は入り乱れ、現実と夢が混ざり合っているようだった。
ジュンはとりあえず現実的な質問を投げかけてみる。

 「今かけてる携帯はいったい誰の…」

 「桜田くん?」


人間の少女が映る。
中学時代にほとんど接触を持たなかったまかない世界のジュンでも、柏葉巴だとすぐに分かる。
携帯電話の持ち主は彼女なのだ。

でもなぜ。

 「な…何で…? 柏葉と真紅たちが一緒に? まいた僕は?」


ジュンは、ますます混乱した。



■ 失われる「平穏な日常」

真紅が会話を引き取り、自分たちの置かれている状況を手短に説明する。

まいた世界のジュンが雪華綺晶に囚われてしまったこと、ジュンは力をくれるマスターでもあるので、ジュンを助けるためにはジュンの力が必要であるジレンマに陥ってること、つまり今頼れるのは(まかなかった)ジュンだけであること。

 「お願いよまかなかったジュン、力を貸して…」


ジュンはもちろん承諾する。
真紅の頼みだったし、なにより自分自身を救い出すために。

扉は開かれ、世界は繋がったのだ。


そこで電話の映像と音声が乱れる。
ノイズが混入する。

真紅たちの他にも、違う世界からこの世界に干渉しようとする者がいるのだ。


そして、ジュンの背後で人形が動き出す。




次回は13号(2/23発売)掲載予定


【 今回の概要 】
金糸雀と水銀燈が出会ったドールはニセモノ世界のホンモノだった。まやかし世界にいることの危険性を感じた金糸雀は、この局面の早急な打開を試みる。その頃、真紅たちはまかなかった世界とのコンタクトに成功するが、まかなかったジュンにも異変が忍び寄る。



【 今回の考察 】


▼ ニセモノ姉妹

まやかし世界で水銀燈と金糸雀が出会った人形は、雪華綺晶がローゼンメイデンを模して作った「姉妹」ということらしい。
つまり、水銀燈たちにとっては「ニセモノの姉妹」ということなる。


ニセモノ姉妹と本物姉妹


この人形は、実際は全然ローゼンメイデンの誰にも似ていない・・・ように見えます。
少なくとも姿形を本物に似せるつもりはなかったようです。

もともと実体を持たない雪華綺晶は、物質が作り上げる形状や容姿というものに興味がないのかもしれないし、うまく認識出来ないのかもしれません。

つまりこの人形の姿こそが、雪華綺晶がとらえて認識しているローゼンメイデンの姉妹たちの像なのかもしれない。


例えば、この「ニセモノ姉妹」には蜘蛛みたいにたくさんの手があり、襲ってくる。

これまで、雪華綺晶は一人で他の姉妹たちを相手に戦うことが多かった。

雪華綺晶vs他の姉妹連合
真紅たちにすれば、強大な力を持つ雪華綺晶に対抗するためのやむをえない共闘だったが……


「か弱い末っ子の自分を、姉たち全員が寄って集ってイジメた」という悲しみと恐怖の記憶が、雪華綺晶のローゼンメイデンの姉妹に対するイメージとなって、このたくさんの細い手がある人形を作り上げたのかもしれません。


そして、外の世界から遮断されて完全に雪華綺晶の主観だけで成り立つこの世界にあっては、現実社会で共有されている価値観や客観的事実などは意味をなさない。 イジワルな姉はニセモノであり(自分は本当の妹じゃないから冷たい仕打ちを受ける?)、雪華綺晶にとって都合の良い人形こそが本物の姉妹ということになる。


あるいはもっと辛辣で、「貴女たちはアリスという究極の少女を目指しているけれど、実際はこんなにも醜い存在」 という風刺と批難を込めた雪華綺晶から姉たちへ送るメッセージなのかもしれない。



▼ 雪華綺晶と「平穏な日常」

今回の話は2つの場面から成っています。

・まやかしの世界で水銀燈と金糸雀が出会った「ニセモノ姉妹」の話。 主観の支配する世界では「思い込み」だけでニセモノと本物が容易に入れ替わってしまう可能性もあるということ。

・まかない世界のジュンが、夢と現実の混ざり合うような領域で真紅たちからの電話を受けること。 結果、世界は繋がり扉は開かれる。

                 ◆       ◆       ◆




この2つの場面に共通しているのは、「本物とニセモノ」「現実と夢」といった対義的で明確に区分されいると思われる概念が簡単に混ざり合い、時に入れ替わってしまっているということです。


ニセモノは本物があって生まれてくるものですが、本物(という概念)もニセモノが存在して初めて成り立つ (本来的にモノが本物であることは当然で、「本物という概念」は必要ない)。

生と死も似たような合わせ鏡で、死がなければ生という概念が生まれないのかもしれません。
また、目が覚めなければ夢であると気づくこともないのかもしれない。

これらは片方の事象や概念を意識することでもう片方も認識することができて、その時になって初めて、それぞれの領域を確保・定義する必要が生じ、お互いを隔てる壁が築かれるのだと思います。


◇ 雪華綺晶

雪華綺晶は、この対となる概念の片方を致命的に欠損しているように見える。 つまり、本来は分かつべき概念の間に壁を築き上げることができないのです。
彼女は夢と現実の区別を付けることはなく、現実で叶わないことなら夢の中で叶えれば良いと考える。

物理的な器を持たない雪華綺晶は肉体に輪郭がなく、自分の領域というものをおそらくは把握できない。 空間と自分の境目をうまく見定めることができない。
そういう事情もあって、壁を作るという習慣が身につかなかったのかもしれない。


◇ 「平穏な日常」

壁を作れない雪華綺晶に対して、(「三匹の子ぶた」でレンガを積む末っ子みたいに)ひたすら外に対して壁を築いて来たのがまかなかった世界のジュンで、彼はまだ見たことのない自分の「限界」にまで想像だけで壁を作ってしまう。
それをまいたジュンに指摘されて、今度は意識的に壁を壊していくことにする。

ジュンが今まで築いてきた余計な壁を壊している間は、それでいろいろなことがうまく行くように見えていた。 壁を壊すことで世界が広がっていくのだから当然かもしれない。
今回の話では、世界を隔てる壁まで壊してしまう。 それによってもたらされるものが吉であるか凶であるかは、今後のお楽しみ・・・!


今回のサブタイトルは「平穏な日常」です。 それが失われようとしている回に「平穏な日常」というタイトルをつけるところは良いですね。

平穏ではない状態に移行して始めて「平穏な日常」というものを認識できる、といっているみたいで。


120602_07.jpg






<TALE 43>
掲載: 週刊ヤングジャンプ 2012年9号 / 1月26日(木)発売
ページ数: 27ページ
登場人物: まかなかった世界のジュン、水銀燈、金糸雀、翠星石、蒼星石、真紅、柏葉巴、雪華綺晶人形、雪華綺晶人形の姉妹、斉藤さん、山口店長
備考:



[ 関連ページ ]
前回 ローゼンメイデン TALE 42
ローゼンメイデン原作の全話レビュー


関連記事
ローゼンメイデン tale36

TALE36 / 絆

だ・・・誰か来たらどうしよう・・・


■ どんな所なんですかねぇ、学校


  だ・・・誰か来たらどうしよう・・・

  俺は、みんなに見せつけたいけどね


翠星石が知っている学校は、そんな少女マンガの舞台としての学校だった。
そこでは日々、人間たちが心ときめくような生活を繰り広げている……に違いない。


まだ見ぬ学校に憧れを抱く翠星石。
その様子を見たのりは、ドールたちを学校へ連れていってあげるようにジュンを促す。


 「何でせっかくの日曜にまで、学校に行かなくちゃ……」

そう渋ってみせるジュンだが、結局、翠星石をバスケットに入れて学校へ向かう。
さすがに一人を連れてくるのが精一杯だった。


 「まだですぅ? この中きゅうくつで…」

 「日曜でも部活の奴らとかいるんだぞ…」


ジュンとしては、人形を人目に晒すわけにはいかない。
外の世界は、ドールにとってあまり居心地の良い場所ではないように見える。


それでも、翠星石は幸せそうに笑った。



■ 何想像してんのかしらないけど、多分違うぞ

学校の教室は、少女マンガで見た景色とそっくりだった。
机や椅子がたくさんあって正面に黒板があって、カーテンが風にそよいでいた。

そして、ジュンと翠星石の他には誰もいない。

 「二人きり…ですね…」


学校は、翠星石にとってはお気に入りの少女マンガの舞台であり、憧れの場所だった。
と同時にジュンが、今は毎日通っている場所でもあった。

翠星石にとっては憧れの非日常空間が、ジュンにとっては自分の身を置くリアルの世界なのだ。

  成長した子どもはお人形遊びをやめて、扉のむこうに駆けていくものですね
  それはわかっているんです、でも


翠星石の中でいろいろな想いが交錯する。


突然、廊下から人の話し声が聞こえる。
この教室に誰かが入ってくるかもしれない。


 「隠れるぞ!」

と、ジュンは慌てる。


  だ・・・誰か来たらどうしよう・・・
  俺は、みんなに見せつけたいけどね


翠星石は、少女マンガの一幕を思い出す。
しかし、ジュンの方は誰かに見せつけようとするどころか、翠星石を隠すことに必死だ。


日曜日、特に用もないジュンが、教室で人形と一緒にいるところをクラスの誰かに目撃されることは、好ましいことではない。ちょっと困ったことになる。

せめて翠星石だけでも隠そうと、ジュンはゴミ箱の蓋を開ける。


 「まさか、そんなトコロに翠星石を…」

 「ごめん、ちょっとの間だから」

 「ふざけんなですー!!」



■ まるで、ほかの何かに出会ってしまったかのような…

 「昨日は何かあったの?」

翠星石とジュンが学校へ行き、のりも出かけたあとで、真紅は蒼星石に尋ねる。
どこかうわの空のように見える、と真紅は言った。


 「鋭いね」

蒼星石は素直に認める。
そして9秒前の白で、水銀燈とめぐ、それとジュンの間で過去に起こった出来事を見せられたと告げる。


 「水銀燈とそのマスターには、僕が思っていた以上に確かな絆があった」

蒼星石は言う。

 「めぐ・・・鍵を握るのはあの少女」


それから、自分のローザミスティカは水銀燈に借りているものであるから、自分の命は彼女のために使うつもりでいるという決意を、蒼星石は打ち明けた。

多分、翠星石には知られたくないことだった。


 「嘘は下手だから…君には正直に話してみたよ」

そう言う蒼星石も、水晶の棺に入ったジュンの姿を見たことは伏せておく。



■ 人間と人形

話し声と足音は、ジュンたちのいる2年6組の教室を通り越えて遠ざかっていく。
このクラスの生徒ではなかったようだった。


 「とりあえず、一難去った…」

ジュンは安堵の息をつく。
手には上履きが握られている。

上履きはゴミ箱に入っていた。
柿崎めぐの名前が書いてあり、ジュンは咄嗟に拾いあげてしまったのだ。

なぜゴミ箱に転入生の新しい上履きが・・・。


すすり泣くような声がする。
ジュンは掃除用具入れのロッカーに隠した翠星石のことを思い出し、急いで扉を開け、外に出す。

 「ゴメン…ゴミ箱よりはマシだったろ?」


そう言うジュンだが、翠星石よりも手にしている上履きに気を取られ、何かに想いを馳せているようだった。
翠星石は表情からジュンの考えていることを感じ取ってしまう。

同じ教室にいるのに、ジュンと翠星石とでは立っている場所が違うし、見える景色も違うのだ。
そしてなにより、ジュンは人間であり翠星石は人形だった。


カーテンは、相変わらず風にそよいでいる。


 「許さんです」

 「どうしたら許してくれる?」


それでも、二人は絆で結ばれている。


 「詫びとして帰りに、マカロンタワーおごれです!」

 「うーん…まぁいいか」

 「えっ…ほんとにです?」




次回は34号(7/21発売)掲載予定


【 今回の概要 】
登校を再開して最初の日曜日、ジュンは翠星石を学校へ連れて行く。憧れの学校に胸を膨らませる翠星石だったが、そこは人形の居場所などない世界であることを改めて思い知らされる。一方、桜田家に残った蒼星石は、自分の決意を真紅に打ち明ける。



【 今回の考察 】

今回は楽しいようで、少し悲しく切なくなるような回でした。

これまでは同じ世界にいて同じものを見ていたけれど、ジュンが外の世界に出ていくことで、つながっていた人間と人形それぞれの世界が、少しずつ離れていこうとしている、そんなことを予感させる回です。


▼ 翠星石の憧れる「人形と人間」の、理想と現実

110623_06.jpg


  だ・・・誰か来たらどうしよう・・・
  俺は、みんなに見せつけたいけどね

と描かれたマンガに、翠星石は憧れる。
でも現実には、ジュンは翠星石を隠す。

外を移動するときはバスケットに入れられるし、廊下で足音がしたらゴミ箱なり掃除用具入れなりに、なりふり構わず隠されることになる。


学校に人形の居場所はない。

ジュンが重い扉を開けて人形たちのいる家から飛び出して目指した先は、人形たちの居場所のない世界だった。


そして、ジュンは側にいる翠星石をよそに、上履きの持ち主である人間の少女に想いを馳せる。

以前、窓から図書館へ向かう巴とジュンを見送った時は、家の中と外、翠星石とジュンは別の世界にいた。今回は、同じ場所にいるはずなのに想いは通じない。

物理的な距離は言い訳に出来ない。


それが人間の成長であり、扉を開け飛び出していくということなのかもしれない。
翠星石も頭では分かっていることだったけど、今回は改めて実感してしまうという形となってしまった気がします。


翠星石


◇翠星石の理想は、めぐと水銀燈の関係?

今回の少女マンガのカーテンのシーンは、水銀燈とめぐが契約を交わす場面を思い起こさせられました (カーテンとシーツの違いこそあれ)。

めぐと水銀燈
水銀燈とめぐの契約シーン


めぐは水銀燈との会話を看護師さんに聞かれることを憚らないし、父親に水銀燈のことを進んで話そうともしていた。

  俺は、みんなに見せつけたいけどね


意外と、めぐと水銀燈の関係こそ翠星石の憧れなのかも!?
(それが、今回のめぐと水銀燈の扉絵の理由??・・・)



▼ 真紅と蒼星石

一人で抱え込もうとする蒼星石の様子に気づき、真紅は何があったのかと問う。
(アニメ・トロイメント第2話で、一人で薔薇水晶のことを抱え込もうとする真紅に気づき、問い質したのが蒼星石だったのを思い出します)

翠星石がいない時を見計らって、蒼星石に尋ねる配慮も真紅らしいです。
真紅は、翠星石がいては蒼星石も話しづらい内容であることは、なんとなく察しがついていたのだと思います。

ただ、蒼星石の異変に気付いていたのは真紅だけではない気はします。というのも、こと蒼星石に関しては、翠星石の方が敏感なので。
翠星石が自分の居場所がないと分かっている学校へ行ったのは、純粋に好奇心や憧れだと思いますが、それとは別に、蒼星石の態度から何かを察して、逃げたかったということもあったりするのかもしれません。


蒼星石は真紅に、過去の光景(水銀燈とめぐとジュンのこと)を見たと伝える。しかし、水晶の棺に眠るジュンの姿を見たことは伝えなかった。

今現在、唯一ジュンと正式な契約を結んでいる蒼星石は、契約していない真紅や翠星石に負担をかけさせないために、一人で背負い込もうとしているのでしょうか、やはり。



▼ 上履き

めぐの上履き
めぐの上履きがなぜかゴミ箱に・・・

制服や上履きは、なんというか学校の象徴であり、学校へ通うために必要な通行手形的な意味もある気がします (学校へ行くのを拒否していた頃、ジュンは自分の上履きの名前を修正して抵抗した《→ 序章・後編》)。

だから、上履きが捨ててあったことに、ジュンは過去の自分を思い出して、ちょっと不安を覚えたのかもしれません。
ジュンはまた、めぐがイジメられてるのかもと考えます。 

それと、「2-B」となっているのも気になります。

ジュンは、めぐの上履きを昇降口の下駄箱に戻してあげるのかな!?





<TALE 36>
掲載: 週刊ヤングジャンプ 2011年30号 / 6月23日(木)発売
ページ数: 28ページ
登場人物: ジュン、翠星石、蒼星石、真紅、桜田のり
備考: カラー扉



[ 関連ページ ]
前回 ローゼンメイデン TALE 35
ローゼンメイデン原作の全話レビュー


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